目次

はじめに

2023年11月22日 仮想化技術のリーディングカンパニーであるVMwareは、Broadcomに買収をされ、傘下となりました。

この一件がIT業界に大きく影響し、さまざまな波紋を呼んでいます。

この記事では今何が起きているか、その影響や今後の展望について詳しく解説したいと思います。

そもそもサーバー仮想化とは

サーバー仮想化とは、物理的な1台のサーバーを分割して仮想的な複数台のサーバーとして扱う技術です。
物理サーバーよりもパフォーマンスは落ちるというデメリットはあるものの、
サーバーのリソースを有効活用できるようになったり、新しいサーバーが必要になった場合もすぐに構築可能になったりすることなど運用効率面でのメリットがあります。

なぜVMwareは買収されたか

Broadcomの立場;ソフトウェア部門の更なる発展

Broadcom Corporationはデジタル信号処理に関する会社として1999年に設立された後、さまざまな企業の買収の実行やAvago Technologies の買収を受け、半導体サプライヤーとしての地位を高めてきました。

さらに、2018年にはCA Technologies を買収し、サプライヤーから半導体とソフトウェアの組み合わせによるソリューションを提供する企業としての姿勢を強めました。

半導体業界の急成長が以前よりも見込めなくなった現在、企業としての成長をより加速するために、
IT の仮想化市場において世界一のシェアを誇る製品やサービスを開発・販売しており、ソフトウェアベンダー全体としても世界第5位の売上高であったVMwareの買収に踏み切りました。

Broadcomは買収以前、ソフトウェアとハードウェアの売り上げが 3:7 程度であったが、VMware買収によって 5:5 とバランスの取れた経営が期待でき、Broadcomは更なる発展と安定的な経営を目指してVMwareの買収をしたと考えられます。

VMwareの立場;財政の立て直し

VMwareは、一時は米EMCや、EMCを買収した米Dell Technologiesの傘下にあったが、2021年にスピンオフ(離脱)を受けました。

しかし、VMwareは離脱後経営に苦しんでいたことが見て取れます。
というのも、VMwareは離脱後1年で、長期負債の額が2.85倍に上昇(82億ドル増加) してしまい、数年純資産が黒字だったVMwareの経営は黒字に転じているからです。

そのため、この買収はVMwareの立場からしても財政を立て直すことができるメリットがあります。

買収後のBroadcomの動向

製品に関する動向;パッケージとライセンス形態の変更

VMware買収後、Broadcom社の動向は、効率化とコスト管理を強く推進させるべく、「パッケージの変更」と「ライセンス形態の大幅変更」を行いました。

「パッケージの変更」においては、数多くあった製品を2つに集約され、計4つのエディションがバンドルで提供されるようになりました。
元々は8,964種類のSKU(Stock Keeping Unit)と168種類の製品・バンドル・エディションがありましたが、「VMware Cloud Foundation」と「vSphere Foundation」の2つに集約されました。
この2つのうち「vSphere Foundation」は企業規模ごとに3つのエディションに分かれ、「VMware Cloud Foundation」を含めると4つのエディションが提供されるようになりました。

「ライセンス形態の大幅変更」においては、
・永久ライセンスからサブスクリプションモデルへ移行
・従来は基本的にCPU単位だったライセンス料金も、コア単位の料金に変化
という2点が大きく変更されました。

以上の変更により、ユーザーによっては以前と比較してオーバースペックの製品を使う必要が出てきたり、課金対象が増えたりしたことで、大きな値上げとなりました。

その他の動向;パートナープログラムの変更, 大規模なレイオフ

提供する製品以外にも、Broadcom社内部では主に「パートナープログラムの変更」と「大規模なレイオフ」が敢行されました。

「パートナープログラムの変更」に関して、買収前のVMwareではさまざまな企業とパートナー契約を結び、ソフトウェアを販売しておりました。しかし、Broadcomによる買収以後は、大規模な顧客に対してはパートナーを介さずに、直販のかたちを取ることを決められました。

「大規模なレイオフ」においては、従業員三千人以上が解雇され、日本支部にも大きく影響しました。

これらは一貫してコストカットや売上額増加など、収益性向上を目的に実行されていると考えられます。

ステークホルダーへの影響

VMwareを利用していたベンダーへの影響

VMwareを使用したサービスを提供していた企業は、VMware製品の大幅な値上げを受けて、サービスの保守打ち切り大幅な値上げを敢行しました。

例えば、 富士通製HCIなどの製品は保守打ち切りとなり、 IIJやNSSOLといったクラウド製品も大幅な値上げを実施しました。

ユーザー企業への影響

契約年数が残っているユーザー企業は引き続き使えるものの、
VMware製品の契約年数が間近な企業などにおいては、大きく「1. 見積もりの停滞による影響」と「2. コスト面による影響」が出ております。

まず、「1. 見積もりの停滞」においては、Broadcom社のVMware側の「1a. 業務システムの混乱」と「1b. サイト変更によるトラブル」が発生しました。

「1a. 業務システムの混乱」においては、VMwareのERPの移行により数週間にわたって見積もり作業が遅延しました。
Broadcom社は「6月末までに通常に戻ると確信している」という声明を出すも、その後も遅延が続きました。
この遅延によって4ヶ月待っても正式な見積もりが届かず、保守切れのまま運用している状態の企業も多数存在する
事態が発生してしまいました。

さらに「1b. サポートサイトの変更」もあり、トラブルの発生やこれらの事態を助長することとなりました。

次に「2. コスト面による影響」です。
VMwareライセンス形態変更による大幅な値上げが実施されたことにより、VMwareにかかるコストが増加しました。企業によっては10倍になったというところもあるようです。

このコスト増加により、製品の値上げをせざるを得なくなった企業によっては、自社製品を値上げをしたことによる売り上げの低迷を及ぼされた企業もあります。

これは、そのような製品を使う側(VMwareを使った製品を利用している企業)にとってもコスト面で影響を及ぼしています。例えば、VMwareを使用していた富士通HCLはVMwareのコスト増加により製品の値上げを実施したため、富士通HCLを利用しているユーザーは製品にかかるコストが増えました。

動向

ユーザー企業の動向:脱VMware

VMwareのコスト増加に対して、ユーザー企業は他ツールや他社への乗り換えを進めています。
また、移行先やこれまで使っていなかった製品の知識や運用ノウハウを学ぶために、移行先のハイパーバイザーに詳しい協力会社を探しているという動きも見られております。

主な移行先候補は3つです。
Windows Server標準の「Hyper-V」、Linux標準の「KVM」、米Nutanixの「Nutanix AHV」などが主な移籍先とされています。

VMwareが連携していた大企業の動向

【Google】

Google CloudはBroadcom社(VMware)とのパートナーシップシップを以前よりも拡大する姿勢を示しています。
具体的には以下の動きがあります。

  • VMwareワークロードにおけるGoogle Cloud独自機能(生成AIなど)の活用促進
  • 両社のプロダクト部門間、市場開拓部門間でのコラボレーション強化
  • Google Cloud MarketplaceにおけるBroadcomプロダクトの提供拡大
  • VMware Cloud FoundationライセンスのポータビリティをGoogle Cloud VMware Engineに拡大


さらに現時点では、クラウドサービスプロバイダーの中でGoogle Cloudが唯一、VCFライセンスのポータビリティを実現できる企業となっております。

【Oracle】

Oracle Cloud Infrastructureは、同社が提供するマネージドVMwareサービス「Oracle Cloud VMware Solution」において、VMwareユーザーの“脱VMware” ではなく“続VMware”を支援していく姿勢を強調しました。

【AWS】

Googleが協力関係を結んでいる一方、「VMware Cloud on AWS」の販売を新規に発行することをBroadcom社(VMware)によって規制されるようになりました。
今後の「VMware Cloud on AWS」の新規や契約更新はBroadcomが行うようになります。

AWSはVMwareからの移行を推奨しており、
特にAWS日本法人の広報は公式ブログで、VMware仮想マシンをAmazon EC2仮想マシンに移行する方法を告知しました。

競合他社の動向

【Microsoft】

  1. VMwareからAzureへの乗り換えを行うユーザー企業に対して20%のディスカウントを実施
  2. 「移行先プラットフォームの選定のポイント」といったウェビナーの実施

【Nutanix】

  1. 問い合わせ数の増加
  2. NutanixモダンなHCIスタックによって、スムーズな顧客のアーキテクチャ移行を実現
  3. 「VMwareがパートナープログラムを変更」したことから、パートナー契約から外れた企業のリクルーティング

【Oracle】

  1. Webマーケティング上の成功。
    「VMware環境のクラウド移行事例」を検索すると、オラクルの事例が最も多くヒットように
  2. 買収以前からのクラウド移行の案件は増加買収以後は急増しており、なかでも基幹システムの案件が増えている
  3. VMwareユーザーの“脱VMware”ではなく“続VMware”を支援していく姿勢を強調

【その他】

クラウド運用代行サービスなどの企業の宣伝数の増加

Bloadcomの最近の動向

上記以外の部分では以下が発表されております。

  1. NVIDIAとの共同ソリューション“Private AI” 発表。
    :「AIから得られるビジネス上の利益と、プライバシーとコンプライアンスのニーズのバランスをとるアーキテクチャのアプローチ」をとることを明言
  2.  ソリューションのエコシステムの拡大
  3. 新機能「Model Store」の発表。
    :LLMへのセキュリティやコンプライアンスの適用、LLMへのアクセス制御、無許可のLLMから自社環境への接続の遮断など安全性を向上できるとする。

まとめと考察

Broadcomの発展とVMwareの財務の立て直しによって、BroadcomによりVMwareの巨大買収が実現しました。

買収に伴い、Broadcomは収益性向上を根ざし、ライセンス制度変更による値上げや、レイオフやパートナーシップ変更によるコストカットを進めてます。
これによってユーザー企業の負担は大きくなり、ユーザー企業は乗り換えの準備を、VMwareの競合他社は新規ユーザー獲得に奔走しているのが現在の状況です。

Broadcomは、今後高単価で高性能でコンプライアンスに強いVmwareという立場を強めていくのだと感じました。

Broadcomがターゲットを明確にする中、競合他社はVMwareの既存顧客のうちそのターゲットから漏れるような層を獲得しにいくチャンスであるとも感じました。

参考サイト

  1. はじめに
  2. なぜVMwareは買収されたか
  3. 買収後のVMwrareの動向
  4. ステークホルダーへの影響
  5. 動向

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