突然ですが、男子高校生のなりたい職業の1位を知っているでしょうか.
実は以外にも、IT・エンジニアやプログラマーが1位なのです。(2019年時点)
2021年の最新の調査では動画投稿者が1位になっていますが、依然として3位に輝いています。
最近ではどこにいても働くことが出来る「ノマド」なんていう言葉が流行りました。
PC一つでどこでも仕事ができる自由さがメディアで取り上げられていたことも、記憶に新しいですね。世界のどこにいても仕事ができること、それは魅力の一つだと思います。
お洒落なカフェでPCを叩く人の姿を最近よく見ますが、何とも言えないかっこよさを感じます。完璧に私感ですが。
しかし、IT業界で働く友人に話を聞くと、華やかさの裏には語られない貧困が存在しています。
あなたは「IT土方」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
目次
IT土方とは?
システムエンジニア、カスタマーエンジニアやプログラマーなどの、情報技術産業で働く労働者の総称を「IT土方」と言います。ほかにも、デジタル土方やコンピューター土木作業員、システム屋とも呼ばれたりします。
個人的にはコンピューター土木作業員という名称にセンスを感じてしまいますが、このように呼ばれるのはIT業界の構造に問題があるようです。なぜならば、IT業界の構造が非常に土木関係の業務委託の形に似ているのです。
IT業界の闇?多重請負構造とは。
例えば顧客がシステム開発をA社に依頼するとしましょう。
A社は10,000円でB社にこれを作ってと依頼。
B社は8,000円でこれを作ってとC社に依頼。
c社は5,000円でこれを作ってとⅮ社に依頼。
A社が行うのは企画や設計。Ⅾ社が行うのはテストなど。
図表に示したように、C社やD社は1社とは限らず、複数存在します。
この業界では「プロジェクトの上流は儲かり、下流は儲からない」と言われています。
食っていくために仕事を受けなければいけないという状況に立たされているC社やD社のような企業はどんな劣悪な条件でも受けているという状況が存在しています。
みずほ銀行のシステム障害、多重請負構造が原因か
2021年9月8日にみずほ銀行がシステム障害を起こしました。
最大100台のATMとインターネットバンキングが一時使えなくなったというニュースが全国に流れました。今年に入って、7回目のシステム障害という数は素人目に見ても多く感じます。
しかし前回(8月20日)に起きたシステム障害に関して、金融庁への報告書には原因不明の文字が並んでいたのです。システム障害の原因だけでなく、5回目のシステム障害の際にバックアップに切り替わらなかったことの原因も不明らしいです。
みずほ銀行は吸収合併をして、もともと別々の銀行のシステムをを統合させる必要がありました。
そして大手企業である4社「富士通」「日立」「NTTデータ」「日本IBM」が参加することになり、総額は4000億円を超えたとか。
想像するだけで大変な業務だとわかりますが、ここで行われていたのが業務委託です。
多くの会社が関わる一大プロジェクトには莫大な人員割かれました。
下請け企業の数も増えていき、その結果として起きたのが問題の箇所を作った担当者がわからないということでした。多重下請け構造が起こした結果が今回のシステム障害なのです。
話の本流を戻しますが、みずほ銀行のプロジェクトでも下請けは低賃金で使い捨てにされていく、その結果が招いた出来事のように思います。
具体的に収入的な面ではどのくらいの差が存在しているのでしょうか。
収入格差の違い
IT業界の仕組みについて説明してきましたが具体的にどのような違いが存在しているのでしょうか。
具体的にわかりやすいので年代別の年収についてみていきたいと思います。
日本国内でこうも違う?収入格差
システム開発の上流工程を担当するITエンジニアの平均年収は600万円以上です。
一方で、ヘルプデスクやデバッグ/テスター、運用/監視/保守などシステム導入後の運用保守に携わるITエンジニアは、平均年収300万円台でした。
40代になるとさらに差が開き、前者の平均年収は700万円以上で後者の平均年収は400万円台であり大きく差が開いていました。
出典:DODA「平均年収出典ランキング 最新版(166職種の平均年収/生涯賃金)(https://doda.jp/guide/heikin/gyousyu/)
日本国内だけではなく、日本と海外には大きな収入格差が存在しており、特にITエンジニアにおいても「我関せず」を通すことが出来ない状況が存在していることがわかります。
海外との比較
平成28年度の経産省が出したデータで特に注目していきたいところは年収平均が日本と比べて米国が高いことにあるでしょう。
上記のグラフは、「能力・成果型企業」を対象に行った年収調査です。そして日本が年功序列の方式で高くなっている一方で、米国は山のような形になっていますね。米国では30代をピークにして下がっていることも各国の特徴を表していて興味深いです。グラフの最小値を見ると、大きな差はないですが平均して米国の方が高いことがわかります。
なぜここまでの差が存在しているのでしょうか。それは、システムエンジニアを囲む環境に一因があるといえるでしょう。
多重請負構造を脱却した米国
実は米国は90年代半ばまで、日本と同じ多重請負構造でした。元請け企業が下請けに委託して開発を行います。そして、足りない人材は契約社員を雇用していました。つまり、米国は多重請負構造+有期雇用(契約社員)により、システムを開発していた形となります。非常に日本と構造が似ています。
しかし多重請負構造は、90年代半ばに崩壊することになります。この時期には、米国IT中小企業の業績が著しく悪化しています。同時期にIBMがインドにIBMインドを設立していることからも、米国内でオフショア志向が高まっていたことが背景にあるのではないかと推測されます。
海外に拠点を置くことは、人件費的な意味でも抑えることが出来ること、そして委託先との齟齬を生まないことが利点と言えるでしょう。
多重請負構造が崩壊したことによって、平均値が上がっていることも給与面での上昇につながっていると考えられます。しかし、GAFAのようなIT企業が存在することからも、日本との給与の平均に差が出ているともいえるため、多重請負構造が全ての原因というわけではないでしょう。
では、米国の後を追っているとよく言われている日本は、米国と同様に多重請負構造が崩壊するのでしょうか。
脱却できるか日本の多重請負構造
「米国の後追い」と言われる日本ですが、果たして米国と同じようにオフショアに移行できるのでしょうか。ここで関わってくるのは、言語の壁が考えられます。
米国が英語とプログラミングに強いインドを手中に収めたことと話が異なっています。
日本語は日本以外では話されていません。
マニュアルが日本語で書かれている以上、細かい点を伝えることは難しいことは想像に難しくありません。。ここで少し脱線しますが、日本人はどのくらいの人が英語を話せると自信をもって答えることが出来るでしょうか。正解は約2割らしいです。
講談社が「純ジャパ(留学や海外生活の経験がなく、日本の学校で英語を学んだ人)」を対象に英語力の調査を行いました。結果についての詳細は省きますが、満足に英会話で道を尋ねた外国人に対応することが出来たと答えたのは、21.8%でした。
・外国人に道を聞かれて「英語で答えられる」(21.8%)と胸を張るのは2割。
・実際に、道を聞かれたときの対応は「身振り手振りを交えた」(49.8%)ジェスチャー英語が一般的で、「相手に通じる英語」(27.3%)で答えられた人は3割以下。
・外国人に道を聞かれて「英語で答えられる」(21.8%)と胸を張るのは2割。
出典:純ジャパ1,000人に聞く、「インバウンド2000万人時代のおもてなし英会話力調査」https://kyodonewsprwire.jp/release/201701057627
英語に苦手意識を持っている日本人からしてみれば、英語でマニュアルを作成するとしても、細かいニュアンスを伝えることが難しいでしょう。このようなことからも、日本のIT業界が言語の壁を超えることが大きなハードルになることが予想されます。
今まで通りの「米国の猿真似」だけでは解決できない問題が内在していると言えるでしょう。
ITエンジニアを目指す子供たちがいる以上、IT業界の労働環境の改善は避けては通れない問題です。多重請負構造の解消のためには、何が必要なのでしょうか。今一度考えてみる必要性があるでしょう。