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2022年度版!データセンタービジネスの最新動向前編

新型コロナウイルスが流行して2年。これまで、様々な業界・業種において大きな変化が求められました。データセンタービジネスも、その例外ではありませんでした。

これまでデータセンターでは、外気を用いた自然冷却を行ったり、マネージドサービスで利用するシステム監視ツールをオープンソースへリプレイスするなど「コスト削減」に励んできました。しかし今後、データセンタービジネスは「コスト削減」だけでは生き残ることができない競争の激化した時代に突入しています。

今回、データセンター事業のマネージドサービスにおける監視基盤に数多く採用されてきた「パトロールクラリス」を展開する弊社コムスクエアが、競争が激化するデータセンタービジネスの未来について2回に渡ってご案内致します。

前編となる今回は、データセンタービジネスのそもそもと市場動向、そして日本国内におけるトレンドについてお伝えいたします。

我々が考察する「未来のデータセンタービジネス」を詳しく知りたい方は、是非、ご覧ください。

データセンタービジネスとは

「未来のデータセンタービジネス」の考察の前に、そもそも「データセンタービジネスとは何か」についてお伝えします。

データセンターとは、日本データセンター協会によると以下のように定義されています。

データセンターとは、インターネット用のサーバやデータ通信、固定・携帯・IP電話などの装置を設置・運用することに特化した建物の総称を指します。

より具体的に言うと、データセンターは、企業が持つIT機器(サーバ機器、ネットワーク機器)を置く場所を提供したり、メンテナンスや監視などの運用まで代行してくれるのがデータセンターです。火災や地震などさまざまな災害に備えた対策が取られていることや、24時間365日の監視、入室の厳重管理も行われているため、安全性の高い建物となっています。

データセンタービジネスが提供しているサービスは、大きく「ハウジング」と「ホスティング」の2つに大別することができます。それぞれご説明いたします。

ハウジングサービス

一言で言うと、「場所を貸すこと」です。

コンピューターや通信機器などのIT機器を、安全性の高いデータセンター内に場所を借りて管理するサービスです。ハウジングサービスを利用することによって、安全性が高く入室管理も厳重に行われている環境でIT機器を運用できます。

ホスティングサービス

一言で言うと、「サーバをレンタルすること」です。

データセンターが敷地内に設置したサーバを、ネットワーク越しに顧客に利用してもらうサービスのことです。企業はサーバを所有する必要性がなくなり、自社で資産を持つことによる維持費を削減することができます。

「ハウジングサービス」と「ホスティングサービス」を活用することで、高いレベルでの可用性や冗長性、機密性を実現することができます。これら2つのサービスを元に事業展開しているのがデータセンターです。

そんなデータセンタービジネスは今、大きな転換点を迎えています。

まずは、今日に至るまでのデータセンタービジネスの変遷をご紹介します。

データセンタービジネス、時代による変化

データセンタービジネスの変遷は、1970年代から今にかけて大きく3つの段階に分けることができます。

1.安全性が求められたデータセンター運営

データセンターの始まりは、電話の交換局としての利用でした。通信の要を担っていたため、災害に強く安全性が高いことが要求されていました。

一方で、企業のIT機器は社内のコンピュータ室で管理されているのが一般的で、まだデータセンターに運用・管理を任せることは少なかったようです。

つまり、当時のデータセンターは一言でいうと「安全なハコ」として一部の企業に利用されていました。

しかし安価で高速なインターネットが普及したことや、コンピューターの低価格化が、データセンターに大きな変化をもたらしました。

2.「コスト削減」データセンター運営

1990年、2000年代に入ると、安価で高速なインターネットが普及し、コンピューターの低価格化が進みました。それに伴い管理しなくてはならない対象機器が増え、企業におけるシステム運用・コスト増大が問題として認識するようになります。この問題意識をきっかけに、一般企業におけるデータセンターの利用が爆発的に増えていきました。

一方、データセンター事業者は利用者の増大に伴い、増設や増床を繰り返しながら拡大していきました。また、利益拡大のために維持費や運用費のコスト削減を実施していく事業者が増えていきました。

ですが、2010年に入ると、徐々にコスト削減から方向性が変わり始めます。

3.サービスの質向上に向けたデータセンター運営

近年では、コロナウイルスをきっかけにデータセンターは「コスト削減」から「サービスの質向上」に取り組む必要性が出てきました。

もはやデータセンタービジネスは、サービスの質を向上しなければ利益を上げられない業界の構造へと変わってきています。

データセンタービジネスの市場動向について

先ほどまで、「データセンタービジネスとは?」についてお伝えしてきました。

ここで、最新のデータセンタービジネスの市場動向を、世界と日本国内に分けて見ていきたいと思います。

1.世界における市場動向

まず、世界におけるデータセンタービジネスの市場規模を見ていきましょう。

こちらに関しては、Gartnerのレポートで詳説されているので、こちらを引用します。本レポートでは、インフレ率の上昇やロシアのウクライナ侵攻に代表される地政学的混乱、人材不足にもかかわらず、IT投資の減速はないとみられ、2022年の世界のIT投資額は4.4兆ドルに達すると予測されています。そして、そのうち約2,186億ドルをデータセンターシステムが占め、対昨年度で5.5%成長するとみられており、2023年にもほぼ同等の成長が予測されています。

出典:Synergy Research Group”Hyperscale Data Center Capacity Doubles in Under Four Years; the US Still Accounts for Half”

またSynergy Research Groupでは、データセンターの拡大について言及されています。本レポートでは、2020年末時点で597だったハイパースケールデータセンターの数は、2021年第3四半期末時点で700に達したと紹介されています。また、国別シェアとして示されているIT負荷容量(IT Load Capacity)を見ると、米国が49%、EMEAが19%、中国が15%を占めています。これらを踏まえると、ハイパースケールデータセンターの急増とデータセンターの平均規模拡大が起こっているため、データセンターの総容量がさらに急増していると言えるでしょう。

他にも例えばMicrosoftは、2021年11月にスウェーデンで、二酸化炭素排出量の削減・廃棄物ゼロ認証の達成・100%カーボンフリーのエネルギーでの運用を掲げた、「持続可能なデータセンター」を開設したと発表しています。また2022年3月にも、地域暖房などデータセンターの排熱の活用を想定した新たなデータセンターリージョンを、フィンランドで開設することを発表しました。

ここまで世界におけるデータセンタービジネスの市場動向について概観してきましたが、まとめると、世界においてデータセンタービジネスは、データセンターの拡大とともに成長し続ける中で、電力供給や地球エコに関する取り組みも進められていると言えるでしょう。

2.日本における市場動向

次に日本におけるデータセンタービジネスの市場動向を見ていきましょう。

こちらに関しては、IDC Japan株式会社によるレポートで詳説されているので、こちらに沿ってご説明いたします。

出典:クラウドWatch「2022年の国内データセンターサービス市場は2兆円規模に、IDC Japan調査」

まず市場規模に関して、2022年の国内データセンターサービス市場は前年比15.3%増の2兆275億円に達するとされています。また2021年〜2026年の5年間における平均成長率は12.8%と高い成長率を維持し、2026年の市場規模は3兆2083億円に達するとも言われています。

こうした高い成長率の背景には何があるのでしょうか。IDCによると、まずはITインフラのリモート運用インターネット上のサービスの利用拡大に後押しされ、データセンター利用は順調に拡大を続けていることが挙げられています。また特にクラウドサービスの分野では、AWSやAzureのようなパブリッククラウドサービスに加えて、クラウドサービスプロバイダーに大規模DC設備を貸し出すタイプのサービス(ホールセールコロケーション)も伸びていることも後押ししています。

ここまでデータセンターの市場動向について概観してきましたが、日本国内においてデータセンターには今後どのようなことが求められるのでしょうか。

IDC Japan ITサービス リサーチマネージャーの伊藤未明氏は、「データセンターサービス事業者は、オンプレミスとクラウドをハイブリッドに利用するためのコンサルティングやネットワーク接続サービスなどの成長分野に注力することになる」と提言しており、クラウドサービスの利用拡大とともに、その周辺サービスに対する需要も拡大しつつあることがうかがえます。

2022年、日本国内のデータセンターにおけるトレンド

先ほどお伝えした日本国内のデータセンター市場において、2022年ではどのようなトレンドが見られるのでしょうか。

本記事では3つご紹介いたします。

1.データセンターの施設拡大

出典:PR TIMES「日本国内の商用データセンタは2023年にはハイパースケール型がリテール型を逆転【インプレス総合研究所 調査報告】」

昨年に引き続き、今後もデータセンター施設の拡大が見込まれ、特に千葉県印西市が注目されています。

印西市には、強固な地盤、地震災害リスクの低さと都心からの近さを持ち合わせた、広大で安価な土地があります。またデータセンターではシステムを止めることが許されないため、大量の電力を安定的に提供される必要性があります。
そうした中で、データセンターが同一エリアに集積することで、電力会社側もそのエリアに重点的に設備を整え、データーセンターの機材の障害やメンテナンスに対応する機器メーカー各社は保守サービス拠点を集約しやすくなり、結果としてデータセンター側は迅速な対応を受けやすくなります。

現在、印西市には、みずほ銀行や三井住友海上火災保険、三菱UFJ銀行、富国生命といった大手金融機関や三菱総研、NTTデータのデータセンターや、NECとSCSKも今年4月に共同で新たなデータセンターが立ち並んでいます。また最近、米Googleは10月7日(日本時間)、日本のネットワークインフラに約1000億円を投資し、2024年には同社初の国内データセンターを千葉県印西市に開設することを発表しました。このように、印西市を中心に今後もデータセンター施設の拡大が見込まれます。

2.データセンター同士の協業

2022年には、国内のデータセンター事業者が協業するようになりました。

例えば、SCSK株式会社(以下、SCSK)と日本電気株式会社(以下、NEC)は、クライアントのDX加速と事業成長に向けてデータセンターおよびネットワーク領域における協業を強化するために、データセンター運営における合弁会社「SCSK NECデータセンターマネジメント株式会社」を2022年4月1日に設立しました。

またBBバックボーン株式会社(以下、BBバックボーン)とMCデジタル・リアルティ株式会社(以下、MCデジタル・リアルティ)は、中長距離波長貸し伝送サービスの提供に向けて、協業することを発表し、MCデジタル・リアルティの印西データセンターと都内主要データセンターの間で、テラビット級の相互接続サービスが利用可能になりました。

ここでは2例のみを取り上げましたが、データセンター同士の協業は今後も進んでいくでしょう。

3.電力コストの削減・環境への配慮

電力コストの削減・環境への配慮」のトレンドは海外だけでなく、日本国内でもあてはまると言えるでしょう。

例えば、NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com)とNTTアノードエナジー株式会社(NTT AE)は、データセンターにおいて再生可能エネルギーを選択できる電力メニューの提供を開始しました。
これは、地球温暖化対策としての脱炭素がますます重要となる中、データセンターを利用する顧客企業の脱炭素ニーズにも応えるべきとの狙いからスタートしました。NTT AEは再生可能エネルギーの供給を担当し、NTT Comの東京近郊のデータセンターでは、利用ユーザーが使用電力を選ぶことが可能です。今後も再エネ利用が可能なデータセンターを拡大し、2023年度中には、NTT Com提供のクラウドサービス全拠点で、NTT AEによる再エネ提供をスタートさせる計画だそうです。

また株式会社アット東京では2022年10月より、「グリーン電力オプションサービス」の提供が開始され、利用ユーザーが再生可能エネルギー由来の環境価値を適用できるようになりました。
グリーン電力オプションサービスでは、「非化石証書」の制度を利用し、二酸化炭素排出量が実質ゼロで電気を使え、脱炭素目標の達成に貢献することができるようになりました。

このように国内においても、海外と同様に電力コストの削減や環境への配慮を念頭に置いた、データセンターの運営がなされていきそうです。

おわりに

本記事では、データセンタービジネスについて解説してきました。

前編となる今回は、データセンタービジネスのそもそもと市場動向、そして日本国内におけるトレンドについてご紹介してきました。

昨年度と比較すると、2022年のトレンドは「データセンター同士の協業」がメイントピックになりそうです。

後編では、なぜ「データセンター同士の協業」が加速化しているかについて弊社の考察をお伝えいたします。

また本記事を執筆した株式会社コムスクエアでは、データセンターにおける監視運用基盤ツールであるパトロールクラリスを開発・販売しております。

ご関心のある方はぜひそちらもご覧くださいませ。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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