Gartner社が発表した「2022年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」
今後ビジネス業界のスタンダードとなり得るトレンドをまとめたランキングを抜粋し、前回記事では「トータル・エクスペリエンス」の解説を行いました。
シリーズ第4弾となる今回は、同じくトレンドにランクインした「分散型エンタープライズ」を取り挙げてみることにしました。
分散型エンタープライズ・・・また難解そうなワードが出てきてしまいました。
毎度のことながら、IT初心者の筆者には何のことだがサッパリです。
そんな筆者ですが、本記事の執筆にあたって分散型エンタープライズについてしっかりと学んできましたので、ぜひご一読ください!
目次
分散型エンタープライズ 10秒まとめ
- 分散型エンタープライズとは、「本社の他にリモートサイト (支社や支店) を抱える企業」のこと。
- 非オフィス中心型の働き方を実践する企業も、分散型エンタープライズに分類できる。
- 分散型エンタープライズにとって重要なのは、「ゼロトラスト」の考え方。
分散型エンタープライズってなに?
日本語とカタカナの横文字が複合した「分散型エンタープライズ」は、企業や政府機関をはじめとする大規模組織のうち、複数の拠点を抱えるものを指す言葉です。
企業を例にわかりやすく言い換えるならば、分散型エンタープライズとは「本社と支社/支店を併せ持つ企業」とも表現できるでしょう。
一方で、「分散型エンタープライズ」はより広義の捉え方をすることもできます。
背景にあるのは、近年注目を集めるクラウドソーシングや新型コロナウイルス拡大を契機に普及したリモートワーク・ハイブリッドワーク。
これらのトレンドが当たり前となりつつある昨今、働く場所はもはや本社や支社・支店に留まらず、オフィスの枠を飛び出して「自宅」にまで拡大しつつあるのです。
分散型エンタープライズ メリット&デメリット
さて、ここからは分散型エンタープライズにおけるメリットとデメリットについて考えていきたいと思います。
分散型エンタープライズのメリット
①採用プロセスの変革
オフィスに縛られない企業形態のメリットは、まず何と言っても多様な人材を雇用できることにあります。
オフィスに出社して勤務することが基本となっているオフィス中心型企業では、家庭の事情によって時短勤務をせざるを得ない人や、居住地の地理的な制約を理由に通勤できない人を採用するのが難しくなってしまいます。
能力の有無ではなく通勤できるか・できないかによって採用可否を分けてしまうのは、才能豊かな人材を獲得したい企業側にとっても、大きな機会損失と言えるでしょう。
反対に、働く場所に縛られない分散型エンタープライズでは、育児や介護などの理由で時短勤務をしたい人や、オフィスから遠く離れた遠隔地に住む人も採用することができます。
働く人間の視点からすれば出勤可否に関わらず自身の能力を発揮する機会を手にすることができますし、企業にとっても純粋に個人の能力をもとに採用を進めることが可能となります。
また、分散型の働き方は長期的に見れば業務の生産性や社員個人のQOL (Quallity of Life) 向上にも貢献するのではないでしょうか。
オフィスの雑音や同僚からの声掛けに邪魔されず個人で集中して作業に取り組みたい人にとって、在宅勤務は理想的な環境となるはずです。
さらに出社義務がなくなれば、就業前後に生じる苦行のような通勤のストレスが軽減されたり、平日であっても就業後にプライベートな時間を確保することができます。
このように考えてみると、分散型エンタープライズが採用プロセスや社員の働き方に与えるメリットとは、テレワーク導入のメリットとも見做せるようです。
もちろん、周囲の目が無いとサボってしまいがち・・・という人には不向きかも知れませんが、もはやこれは個人の性格の問題ですね(笑)
②顧客体験の向上
Gartnerによれば、分散型エンタープライズがデジタル化・リモート化する対象は社員の働き方だけでなく、顧客との接点にも及びます。
昨今のB2Cビジネスにおいて、企業が消費者により身近でアクセスしやすいタッチポイントを設置することの重要性は、誰もが理解しています。
分散型エンタープライズにとっても、デジタルな「支店」を設けて顧客との接点を増やし、ビジネスの在り方そのものを変革していくことが最重要テーマとなりつつあるのです。
例えば、最近注目されているデジタル試着室。
実際に店舗を訪れなくともカメラの前に立つだけで洋服の試着ができてしまうテクノロジーですが、購入しようか迷っている商品を自宅でくわしく見ることができるようになれば、最終的な買う/買わないの判断を後押ししてくれるのは間違いないはずです。
従来であれば実店舗に縛られていた「商品に触れる場」を消費者個人の自宅、さらには手元のコンピューター端末にまで近づけたことで、顧客体験は一気に向上しました。
また、新型コロナウイルス拡大に伴い外出機会が激減したことで、消費者が自宅で買い物をする機会がますます増え、商品の購入を促したい企業にとってバーチャル/リモートな顧客体験の場を提供することは、もはや不可欠といえるまでになりました。
Gartrnerは、バーチャル・ファースト、リモート・ファーストな働き方を実践する分散型エンタープライズは、顧客体験のデジタル化にもいち早く対応することができるのではないかと主張しています。
分散型エンタープライズのデメリット
一方で、分散型エンタープライズにもデメリットが存在します。
上で挙げたような在宅勤務にありがちな「サボり」は勿論ですが、最も重要な問題はセキュリティ管理でしょう。
オフィス勤務が基本であれば、安全性の担保された社内ネットワークを構築しておけば外部からの攻撃や情報漏えいといったリスクをある程度コントロールできるはずです。
反対に、在宅勤務時に社用PCや端末を接続する家庭内ネットワークや公共空間のフリーWiFiには、さまざまなセキュリティリスクが潜んでいます。
このようなリスクの大きいネットワークに社用端末を接続し、そのまま社内情報を取り扱うのはあまりにも不用意でしょう。
他にも、テレワーク浸透とともに利用が活発化したクラウドストレージサービスは、社外ネットワークからでも秘匿性の高い業務データにアクセスできるようになる半面、クラウドサービス自体が攻撃されたり、何らかの理由によってデータが失われるリスクを抱えています。
クラウドストレージサービスの多くは有事の際のデータ保護責任はユーザー側にあるとしているため、データ漏えいや喪失に備えるためには、企業自身が的確な対策を取る必要があるのです。
では、分散型エンタープライズにおけるセキュリティリスクを解消するために経営者が取るべき姿勢はどのようなものでしょうか。
その答えは、以前本メディアでもご紹介した「ゼロトラスト」にあります。
ゼロトラストって何??
ゼロトラストは、「Verify and Never Trust (決して信頼せず必ず確認せよ) 」とも表現される、2010年に提唱されたセキュリティソリューションに由来する言葉です。
端的に言えば、「何も信じず、すべてを疑うセキュリティ管理方針」です。
ゼロトラストの考え方は決して真新しいものではありませんが、リモートワークが増加したことで大きく注目されるようになりました。
テレワーク普及とともにオフィス外で働くシーンが増え、クラウドストレージを利用して社内の業務システムにアクセスしたり、データを社外に持ち出してローカル端末に保管する場面が増えたからです。
クラウドサービスの多くは社内ネットワークに構築されたものではないため、実質的にはデータを「社外」で保管していることになり、社内と社外の境界線が曖昧になります。
従来であれば社内ネットワークへの接続のみを監視していれば事足りていましたが、社内ネットワークの外部で行われる操作・通信にも注意を払う必要が生まれ、結果として「ゼロトラスト」がホットワードとなったのです。
テレワーク同様、オフィス外勤務を多分に含む分散型エンタープライズでも、社内と社外の概念は曖昧化していくことが想像できます。
オフィス外に分散したインターネット通信を管理していくためには、やはりゼロトラストのセキュリティーモデルが役立つのではないでしょうか。
ゼロトラストについてさらに詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。
分散型エンタープライズが示唆する、仕事と消費の未来
今回は「分散型エンタープライズ」の意味や、多様な働き方を取り入れるメリット・デメリットについて考えてきました。
分散型エンタープライズが当たり前になればなるほど、わたしたちの生活における「仕事」はより自宅に根差したものになっていくかもしれません。
また、仕事の在宅化に呼応するように消費の在宅化が顕著になるつつある今、このトレンドが引き続き進展していけば、一切外出せずとも満足に社会生活を送っていけるような世界が来るのではないか、という想像さえしてしまいます。
そのような世界になったら便利だろうなと思う一方で、人との対面コミュニケーションを通じて生まれる繋がりが無くなってしまったら、悲しいような気もします。
人と関わることが大好きな筆者としては、仕事も消費もリアルとバーチャルがバランスよく共存する世界になってほしいな・・・と思っています。
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