Gartner社が発表した「2023年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド

今後ビジネス業界のスタンダードとなり得るトレンドをまとめたランキングを抜粋し、前回記事では「スーパーアプリ」の解説を行いました。

シリーズ第2弾となる今回は、同じくトレンドにランクインした「持続可能なテクノロジー」を取り上げます。

目次

持続可能なテクノロジー 10秒まとめ

・持続可能なテクノロジーとは、「環境、社会、ガバナンスの持続可能性をサポートするテクノロジーのフレームワーク」のことを指す。

・持続可能なテクノロジーは、SDGsの普及や「サーキュラーエコノミー」という考え方が登場により、注目されるようになった。

・持続可能なテクノロジーの例として、昆虫食・培養肉・カーボンニュートラル等が挙げられる。

持続可能なテクノロジーとは何か?

「持続可能なテクノロジー」とは、一体何でしょうか?

Gartner社の発表によれば、持続可能なテクノロジーとは、「環境、社会、ガバナンスの持続可能性をサポートするテクノロジーのフレームワーク」のことを指しています。

近年、企業はサステナビリティ(持続可能性)を達成することを求められています。「サステナビリティ」とは、企業が使う場合、「目先の利益の追求だけでなく、自然環境や社会システムの維持にも目を向けよう」という考え方や活動を表しています。すなわち、「事業活動が環境や経済などに与える影響を考えながら長期的な運営を目指そう」という考え方を指します。

このサステナビリティの目標を達成するために、企業はESGの要求に対応できる革新的なテクノロジーへの投資を拡大する必要があり、「持続可能なテクノロジー」の新しい枠組みが必要となります。

その枠組みには、企業自身が利用するITのエネルギーや資源の利用の効率化、トレーサビリティ/アナリティクス/再生可能エネルギー/AIなどのテクノロジーによる企業のビジネスに関わるサステナビリティの向上、企業の顧客が環境やソーシャル・サステナビリティを向上するためのITソリューションの提供などが含まれています。

ここまで「持続可能なテクノロジー」の定義について解説してきましたが、次節では、「持続可能なテクノロジー」の具体例を見ていきましょう。

持続可能なテクノロジーの実例とは?

ここでは「持続可能なテクノロジー」の実例をいくつかご紹介します。

昆虫食

昆虫食とは文字通り「昆虫を食す」ことで、国連食糧農業機関(FAO)が世界的な人口増加による食糧危機を乗り越えるための一助になるとして推奨してきました。

日本でも山間部を中心に、イナゴや蜂の子(ハチの幼虫)などが食されているほか、近年ではセミやカブトムシ、サソリといった昆虫を珍味として提供する飲食店も増えていますが、2018年には熊本市で、誰でも手軽にさまざまな種類の食用昆虫を購入できる自動販売機が登場しました。

設置した方によると、再び地球が氷河期に突入した場合や食糧難になった場合に足りない食料を補うものとして昆虫食が推奨されていたので、自分たちも地元の人たちも一緒に昆虫食に慣れていきたいという思いから設置されました。自動販売機に並ぶ商品は、食用昆虫を販売する国内外のメーカーから仕入れ、すべて自分自身で試食してから、自動販売機に並べるようにしているとのことです。

培養肉

ちまたでよく耳にする「培養肉」も、持続可能なテクノロジーに含まれます。

「培養肉」とは牛などの動物や魚などの肉からとった細胞を、栄養成分が入った液体の中で培養して増やしたものです。

肉の細胞を培養して新たな肉を作り出す「培養肉」は食糧不足の解消や環境負荷の軽減などにつながると、世界中で研究・開発競争が激化する中で、2022年3月に東京大学と日清食品ホールディングスは共同で、最新の技術で作った国産牛肉ならぬ、国産「培養肉」の試食を行いました。現在、国内では形を作るだけでなく、おいしさなどの品質向上を目指した培養肉の開発が進められています。

カーボンニュートラル

今日、よく耳にする「カーボンニュートラル」。これは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味しており、世界的な脱炭素の取り組みが進められるなかで、アイスランド発の企業「Climeworks」に注目が集まっています。

同社は、空気から直接二酸化炭素を除去するプラント施設「Orca」を開発しており、「Orca」では、石灰化した二酸化炭素は恒久的に保存できるため、世界にある空気中の二酸化炭素量を直接的に減らすことができると期待されています。

また、同社は企業や個人へ向けたサブスクリプションサービスを発表しており、日々の生活や、企業によるプロジェクトを手軽にカーボンニュートラル化に参加できることも魅力の1つです。

持続可能なテクノロジーが叫ばれるようになった背景

持続可能なテクノロジーが取り上げられるようになった背景には、何があるのでしょうか?

環境省「令和3年版環境・循環型社会・生物多様性白書第2章第2節循環経済への移行」より引用

それは、注目を浴びている「サーキュラーエコノミー」という考え方で、これは宇宙船地球号のような全世界平和的な発想から一歩踏み出し、循環を通じて「ビジネス面でも利益を生み出す」発想が特徴的です。

サーキュラーエコノミーは、国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)が追い風となり提唱されるようになりました。SDGsとは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すべく、経済成長・海洋資源・産業化・生産消費・医療・教育など多くの分野に目標が定められており、先進国や途上国を問わず、参加するすべての国の方が対象です。

SDGsは2015年に行われた国際サミットにおいて採択され、世界には貧困や感染症、気候変動、戦争など数多くの課題があり、地球上で安定して暮らし続けるのは難しいという危機感から、世界中のさまざまな人々が話し合いをして、課題を整理した上で、解決方法を考えて具体的な目標を立てられました。

SDGsの概念が広まったこともあり、サーキュラーエコノミーという考え方が提唱されるようになりましたが、これは企業活動との相性が良いため、ESG・CSRなどに絡めて急速に広まりを見せています

なぜ循環型の経済活動が重要課題として叫ばれるのでしょうか?

それは人が身近に想像できるほどに、様々な「終わり」が垣間見えてきたことにあります。例えば、「水や食べられる魚が無くなる」、「資源が枯渇する」、「大気汚染や土壌汚染で住めなくなる」、「ごみを捨てられる場所が無くなる」、「気温が高くなり住めなくなる」など。これらの実感に加えて数字を伴った推移予測からも明らかになったことで、本当に起こり得る事態として多くの人々がリアルな危機感を感じたのが大きな理由として考えられます。

実際にEUでは、2015年に「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」政策が採択され、例えば廃棄物に関する目標として「2030年までに加盟国各自治体の廃棄物の65%をリサイクルする」といった意思表示をしています。また日本でも、循環型の社会を目指すため環境省が3R(Reduce・Reuse・Recycle)政策を打ち出すなど、特にリサイクルを軸とした取り組みが行われてきました。

こうした社会情勢・経済情勢からも「サーキュラーエコノミー」という考え方のもと、地球環境を持続可能なものにするために、テクノロジーの発展においても、技術進歩と地球環境保護を両立させようという「持続可能なテクノロジー」が生まれたのだと言えます。 

持続可能なテクノロジーについて企業に求められていることとは?

ここまで「持続可能なテクノロジー」について、その定義と具体例、そしてこの概念が生まれた背景についてご紹介してきました。

今回ご紹介した「持続可能なテクノロジー」ですが、2019年に国連環境計画主導で開始された、サステナテック・スタートアップを推進する「Green Technology Startup Hub」には、IBMやGoogleなどの大手テクノロジー企業も参加しています。また、Fortune Business Insightによると、2020年に95.7億ドル(約1.1兆円)だったサステナテックの市場規模は、2028年には416.2億ドル(約4.8兆円)になると推測されており、「持続可能なテクノロジー」は政治的にも経済的にも多くの関心を集めています

そんな中で、アクセンチュアが発表した「テクノロジーとサステナビリティの統合」によれば、調査に参加したすべての企業(売上高10億米ドル以上規模の560社)が、サステナビリティ目標の達成にテクノロジーが「重要」または「非常に重要」であると回答し、「テクノロジーを使用せずにサステナビリティ目標を達成することは不可能である」という結論が示されました。また、企業が持続可能なテクノロジーに関する目標を達成するためには、サステナビリティ目標の達成に有用なテクノロジーを特定するとともに、テクノロジーそのものが環境や社会に与える影響についても考慮する必要があるとのことです。

実際に国内でもNECを例に見てみると、例えば、カゴメ株式会社と連携してデジタル化による気候変動等に柔軟に対応したサステナブルな農業を実現したり、医療法人社団KNIと連携し、AI やIoTなどのデジタルテクノロジーを医療に導入したデジタルホスピタル構想の実現に向け、開発を進めています。

以上のことから、企業が新技術を開発するなどイノベーションをおこす上においては、テクノロジーとサステナビリティの両立を目指す「持続可能なテクノロジー」という概念を念頭におく必要があると言えるでしょう。

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