Gartner社が発表した「2022年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」
今後ビジネス業界のスタンダードとなり得るトレンドをまとめたランキングですが、前回記事ではこのうちオートノミック・システムの解説を行いました。
シリーズ第3弾となる今回は、同じくトレンドにランクインした「トータル・エクスペリエンス」を取り挙げてみることにしました。
『トータル・エクスペリエンス』と聞いても、文系インターン生の筆者が連想できるのはRPGゲームの経験値くらいです。
そんなIT初心者の筆者ですが、本記事の執筆にあたってトータル・エクスペリエンスについてしっかりと学んできましたので、ぜひご一読ください!
目次
トータル・エクスペリエンス 10秒まとめ
- トータル・エクスペリエンスとは、ビジネスプロセスにおけるあらゆる体験・認知を総合化した概念。
- カスタマー・エクスペリエンス (CX)、従業員エクスペリエンス (EX)、ユーザー・エクスペリエンス (UX)、マルチエクスペリエンス (MX) を全体的に向上させることを目的としている。
トータル・エクスペリエンスって何??
ガートナー社は、トータル・エクスペリエンスを「カスタマー・エクスペリエンス (CX)、従業員エクスペリエンス (EX) 、ユーザー・エクスペリエンス (UX)、 マルチエクスペリエンス (MX) と結び付ける戦略」と定義しています。
そもそも、トータル・エクスペリエンスを構成する4つの要素自体、社会人未経験の筆者には定義のわからない言葉です。
そこで、トータル・エクスペリエンスを理解する前段階として、まずはCX・EX・UX・MXがそれぞれ何を意味するのかを整理してみました。
カスタマー・エクスペリエンス -Customer Experience-
カスタマーエクスペリエンス (CX) は、「顧客体験」を意味する言葉です。
顧客満足度とほぼ同義の概念として捉えられますが、ここでの「満足度」とは必ずしも商品そのものから得る充足感ではなく、サービスの受け手として体験し得るすべての側面を統合的に評価したものです。
例えば、お昼にラーメン屋を食べたいなと感じた時。
私たち消費者は、Webや人伝手でおいしそうなお店を探し、店舗に行って店内の雰囲気、店員さんの振る舞いを目にします。
そして運ばれてきたラーメンを堪能しつつ、ここの料理は美味しい・美味しくないといった具合に、心の中でひとり評論会を繰り広げるのです。
ここで重要なのは、私たち消費者が上で挙げたすべてのプロセスにおいてお店の評価を行っているということです。
ラーメンがおいしかったとしても、店員さんの態度が悪かったり店内に清潔感がなかったりすれば、一般的にお客さんはネガティブな印象を受けるものです。
エンプロイー・エクスペリエンス -Employee Experience-
エンプロイー・エクスペリエンス (EX) は「企業で働く従業員の体験」を指し、具体的には労働環境・職場の人間関係・給与や手当などの待遇・昇進機会・キャリア形成といった、「仕事」のあらゆる側面が含まれます。
CXが顧客に焦点を当てた概念である一方、EXはその体験を生み出す企業の従業員に向けられたものです。
職場環境が劣悪であればパフォーマンスは落ちますし、会社への愛着が湧かず離職率も高くなりがちです。
EXは、社内アンケートやメンター制度の導入、規則や企業文化の改善を通じて従業員の満足度を高め、企業の成長につなげようという考え方だと言えます。
ユーザー・エクスペリエンス -User Experience-
ユーザーエクスペリエンス (UX) とは、「ユーザーが商品やサービスを利用する際の体験」を指す言葉です。
カスタマー・エクスペリエス (CX) と混同されがちですが、サービス利用者のあらゆる体験に着目するCXに対し、UXは商品やサービスそのものへの満足度を評価するための概念です。
そのため、UXはCXを構成する要素の1つとして認知されています。
簡潔に表すならば、「ユーザーが商品に触れた時にどう感じるか」といったところでしょうか。
マルチエクスペリエンス -Multi Experience-
マルチエクスペリエンス (MX) とは、「さまざま知覚、アプリ、デバイスなどを用いて得られる複数のタッチポイントからの一貫した体験」を指します。
拡張現実 (Augmented Reality)、仮想現実 (Virtual Reality)、複合現実 (Mixed Reality)、IoTといった技術を活用して生まれるユーザー体験などが含まれるようです。
例としては、少し前に流行り出した「バーチャルフィッティング」などが挙げられます。
バーチャルフィッティングとはオンラインで疑似的に衣服の試着が出来るテクノロジーのことですが、これまではオフライン世界に限定されていた「試着体験」をデジタル世界にも持ち込んだという点で、MXの代表事例と呼べるでしょう。
マルチエクスペリエンスの意義とは、「現実世界では得難い体験を提供すること」なのです。
結局、トータル・エクスペリエンスってどういうこと?
本題までが長くなってしまいましたが、つまるところトータル・エクスペリエンスとは、「企業が関わるすべての人々に対して、あらゆる次元でポジティブな体験を提供することで、企業の成長が促される」ということです。
トータル・エクスペリエンスの
コンセプト図。
ユーザー・エクスペリエンス (UX) は、カスタマー・エクスペリエンス (CX) のいち要素として定義づけられる。
EXの向上がカギ?日本企業のトータル・エクスペリエンス
改めて定義を書き起こしてみると、「わざわざ概念化しなくても誰もが当たり前に認識していることじゃないか」なんて思ってしまいますが、トータル・エクスペリエンスが注目され始めている背景には、従来のビジネス業界における「エンプロイー・エクスペリエンスの軽視」があるのではないでしょうか。
「お客様は神様」という表現から伺えるように、日本の企業では業種・業態に関わらず顧客やユーザーの満足度 (CX/UX) を重視するあまり、従業員の満足度が見落とされてきたような印象があります。
行政が様々な対策を打ち出したことで、ここ数年は過労死や過度なパワハラを耳にする機会は減りつつありますが、それらはあくまでも規範から外れた就業実態を罰するものであり、EXの向上を目的とした取り組みではありません。
インターネットを覗いてみれば、勤務先の社内文化に不満を抱える人の声が数多く聞こえてきます。
このような不満は、どちらかと言えば価値観の相違が生み出すものであり、同時に企業自身の努力によって解消する余地のある課題でもあります。
今はまだ顧客満足度と従業員満足度を統合的にスコア化する手法は整っていませんが、トータル・エクスペリエンスを普遍的に算出する仕組みが近いうちに確立されたとしたら・・・
「EX低下を嫌った投資家たちのパニック売りが相次ぎ、〇〇コーポレーションの株価が一時暴落しました。」
「〇〇業界では、202X年度のEX低下を受けて全体的に業績の落ち込みが予想されています。」
そんなニュースを耳にする将来も、まったくありえないとは言えませんね。