Gartner社が発表した、「2023年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」。
既に概要をチェックしたという人は、どの程度いらっしゃるでしょうか。
「Gartner IT Symposium|Xpo 2022」(10月31〜11月2日) において、ガートナージャパン株式会社は企業や組織にとって重要なインパクトを持つ「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」の2023年版を発表しました。
しかし、筆者のようにIT業界の動向に疎い人にとっては、Gartner社が何をしている企業なのかすらわからないというレベルです。
そこで今回の記事では、Gartner社によるテクノロジ界隈の最新トレンドをレビューしつつ、今回は「スーパーアプリ」を取り上げていきたいと思います。
目次
「戦略的テクノロジのトップ・トレンドとは?」
「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」とは、ITビジネスに関するリサーチ・コンサルティングサービスを提供するGartner社が、ビジネスリーダーたちに向けて発表している、「注目すべきIT業界のトレンド」ランキングです。
言い換えるならば、「IT業界に身を置くなら知っておくべき最新ITトレンド」でしょうか。
ランキングでは、具体的に以下のようなトレンドワードが挙げられています。
リストに目を向けてみると、耳慣れないカタカナ表現の多い昨今のビジネス業界でも聞いたことのない言葉ばかりが取り挙げられていますね。
ここでリストアップされているすべてを解説していくのは難しいため、今回はまず「スーパーアプリ」について掘り下げていきましょう。
スーパーアプリ 10秒まとめ
・スーパーアプリとは、日常生活のあらゆる場面で活用シーンを想定して、ハブとなる1つのスマホアプリに様々な機能をもつアプリ(ミニアプリ)が紐づいた統合的なアプリのことである。
・スーパーアプリには、「ユーザーの流出抑制」「アプリのプラットフォーム化」「低コストの事業展開」という3つのメリットがある。
・スーパーアプリには、「機能性と利便性の両立の難しさ」・「個人情報の管理の難しさ」・「参入障壁の高さ」という3つのデメリットがある。
身近なLINEもスーパーアプリ!?
皆さんは、「スーパーアプリ」と聞いて何を思い浮かべますか?
私は最初、「スーパーアプリって何ぞ?」と思い、いろいろと調べてみると
スーパーアプリと関連して「ミニアプリ」という言葉まで出てきました。
しかし、よくよく調べてみると、
私たちの生活に馴染み深いとあるアプリが関連していることがわかりました。
そのアプリとは、”LINE”です。
“LINE”の主な機能として、チャットや電話ができるというのは周知の事実だと思います。
それ以外にも、”LINE MUSIC”・”LINE マンガ”・”LINE Pay”など、音楽・マンガ・ゲームと言ったエンタメアプリから決済アプリ、買い物アプリに至るまで、日常生活のあらゆる場面で使うことを想定したアプリが、”LINE”という1つのハブとなるアプリに搭載されています。そのため、1つのIDとパスワードがあれば、”LINE”だけでなく”LINE マンガ”や”LINE Pay”など、LINEが提供するすべてのサービスを利用することができます。
また現在、LINEの利用者数は国内で8000万人を超えるとされており、今後も日本を代表するスーパーアプリでありつづける可能性が高いです。加えて海外企業に立ち向かうために、LINEは国内最大級のキャッシュレス決済サービスPayPayを運用するYahoo!と合併し、よりLINEをスーパーアプリにしようと躍進しています。
LINEを例に見てきましたが、ここでスーパーアプリを定義するとすればどのように定義できるでしょうか?
スーパーアプリとは、日常生活のあらゆる場面で活用シーンを想定して、ハブとなる1つのスマホアプリに様々な機能をもつアプリ(ミニアプリ)が紐づいた統合的なアプリのことを言います。スーパーアプリだと、スマートフォンで何かをする度に複数のアプリを立ち上げる必要がなくなり、一つのアプリで完結します。スーパーアプリ内に一見、関連性がないように見える機能やサービス群があったとしても、一貫してユーザー体験を重視してアプリが統合されています。
ここで LINEの例に立ち戻ってみると、”LINE”がスーパーアプリで、”LINE MUSIC”・”LINE マンガ”・”LINE Pay”が”LINE”に紐づくミニアプリということができます。
スーパーアプリについて本節では解説してきましたが、スーパーアプリにはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?次章ではこれらについて解説していきます。
スーパーアプリの3つのメリットとは?
「スーパーアプリとは何か?」についてお伝えしてきましたが、スーパーアプリにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
ここでは、「ユーザーの流出抑制」「アプリのプラットフォーム化」「低コストの事業展開」の3つについて詳しく見ていきましょう。
ユーザーの流出を抑制
1つのアプリに様々なサービスや機能が集約されているのが、スーパーアプリです。そのため、ハブとなるスーパーアプリに、決済アプリやショッピングアプリ、ゲームアプリなど多くのミニアプリと連携させることで、ユーザーの流出抑制にもつながります。
また一度インストールされると、スーパーアプリを起点として様々なサービスをユーザーに利用してもらえるため、ユーザーの端末から削除されにくいこともメリットにあげられます。
アプリのプラットフォーム化
スーパーアプリには、事業拡大や新事業の展開がしやすいこともそのメリットとしてあげられます。様々なアプリの開発を手がける際、サービスの分野やニーズごとにアプリを開発しなければならず、金銭的なコストも時間的なコストも多くかかります。
一方でスーパーアプリを自社が保有していた場合、新規サービスの提供を開始したいときにミニアプリを追加するだけで済むため、スムーズに新規事業を展開できます。
また事業拡大を考える際には、スーパーアプリのユーザーをどのようにミニアプリに誘導するかを考えるだけで良いのも大きなメリットになりうるでしょう。
低コストな事業展開
新規アプリ開発にかかる費用を抑えられる点もスーパーアプリのメリットとしてあげられます。
1から単独で、自社アプリを制作する場合、開発費やアプリの普及に必要な広告宣伝費が高額になることがあります。
一方でミニアプリの開発であれば、スーパーアプリに対応したフレームワークを利用できるため、開発期間と人件費を抑えることができます。
加えて開発されたミニアプリは、スーパーアプリ内で公開すると利用ユーザーに対してへの広告で済むため、広告宣伝にかかる費用も抑えることも可能になります。
ここまでスーパーアプリのメリットについて見てきましたが、1度スーパーアプリ化してしまえば、ユーザーを集めるコストや新規アプリを作るコストを削減できるようになるため、ユーザーファーストを追求しやすくなるということがメリットとして言えるでしょう。
スーパーアプリには「参入障壁」という落とし穴がある
メリットについてお伝えしてきましたが、スーパーアプリのデメリットとして、「機能性と利便性の両立の難しさ」・「個人情報の管理の難しさ」・「参入障壁の高さ」があります。デメリットについてもそれぞれ見ていきましょう。
使いやすさが最重要に
スーパーアプリのもう1つの強みとして、様々なミニアプリが集約され、機能性の高いことがあげられます。ただし、多機能になり過ぎると操作性が悪くなり、多くの機能を1つのアプリに詰め込んだうえでユーザーに簡単に使用してもらうことは容易ではありません。そのため、特にスマホという小さな画面で機能性と操作性を両立することがカギとなります。
機能面と操作性を高いレベルで両立させながらアプリを開発するためには、優れたUI(アプリの見た目・使いやすさ)やUX(アプリの利用を通じてユーザーが得る体験)を設計する必要があります。自社にUIやUXに関してノウハウがない場合、開発が難航することもあり得るでしょう。
個人情報の管理の難しさ
冒頭で、「スーパーアプリでは1つのIDやパスワードを設定すれば様々なサービスを利用できる」とお伝えしました。これは大きな利点ですが、「スーパーアプリにユーザーの情報が集約される」というリスクを負っています。仮にハッカーがユーザー情報の入手を試みた場合、スーパーアプリのログイン情報だけ手にいれれば、チャット内容から決済情報まで全てを閲覧することが可能になります。
このようにスーパーアプリには、個人情報の管理を徹底することが求められています。近年ネット上への個人情報流出が度々事件化されて取り上げられていることからもわかるように、GAFAを含め、多くの企業がプライバシー・個人情報保護対策に苦心しています。そのため、スーパーアプリが普及するほど、「プライバシー問題」への世の中の関心が高まり、企業はさらなるプライバシー対策を求められます。
新規参入のハードルの高さ
スーパーアプリの強みの1つに、1つのアプリで様々なサービスを利用できることがあります。
しかしスーパーアプリを充実させるには、自社で提供可能なミニアプリをたくさん用意する必要があります。自社で提供できるミニアプリが少なければ、スーパーアプリへの新規参入は当然難しいといえます。また自社のミニアプリが少ないときには、パートナーを募ってミニアプリを組み込む方法もありますが、プラットフォームに魅力がなければパートナーの募集も難しくなります。
以上を踏まえると、スーパーアプリ化を目指すには多くのサービスを開発できるだけの企業体力があるかが重要になりそうです。
ここまでスーパーアプリのデメリットについて見てきましたが、スーパーアプリは多くのユーザーが集まって初めて成り立ちます。そして多くのユーザーを集めるためには、スーパーアプリは「アプリ自体の使いやすさ」と「個人情報が漏れないという安心感」を両立しておく必要があると言えるでしょう。そのため、デメリットの中でも「使いやすさが最重要になること」と「個人情報の管理のむずかしさ」が大きなものとしてあげられるでしょう。
スーパーアプリの「これから」とは?
ここまでスーパーアプリについて、その概要とメリット・デメリットをお伝えしてきました。
もともとスーパーアプリは中国や東南アジアを中心に普及してきました。それは、インターネットをつなぐデバイスが始めからスマートフォンやタブレットなどの端末だったからです。そのため、多くの機能を搭載した、日常生活において活用シーンの多いスーパーアプリは浸透しやすかったのです。
一方で日本や欧米では、パソコンが普及してからスマートフォンやタブレットなどの端末が普及し、ユーザーのニーズに合わせたサービスが個々に開発された結果、様々なアプリが乱立するようになりました。
実際、今の日本のアプリ市場では、App StoreやGoogle Playなどのアプリケーションストアに様々なアプリがリリースされており、中国や東南アジアに比べるとスーパーアプリの普及は発展途上と言えるでしょう。
しかし今日、日本でも「LINE」や「PayPay」を中心に、ミニアプリを積極的に導入し、スーパーアプリ化を進める企業が出現するようになりました。また、コロナ禍においてリモートや非接触コミュニケーションが重視されるようになったことも、スーパーアプリには追い風と言えます。モバイル社会の現代にフィットし、機能性と利便性を兼ね備えたスーパーアプリは、これからますます需要が高まり、ますます注目されるようになるでしょう。
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