Gartner社が発表した、「2022年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」。
既に概要をチェックしたという人は、どの程度いらっしゃるでしょうか。
「Gartner IT Symposium|Xpo 2021」(11月16~18日) において、ガートナージャパン株式会社は企業や組織にとって重要なインパクトを持つ「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」の2022年版を発表しました。
しかし、筆者のようにIT業界の動向に疎い人にとっては、Gartner社が何をしている企業なのかすらわからないというレベルです。
そこで今回の記事では、Gartner社によるテクノロジ界隈の最新トレンドをレビューしつつ、その中でもひと際目を引く「ジェネレーティブAI」を取り挙げていきたいと思います。
目次
「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」 とは?
「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」とは、ITビジネスに関するリサーチ・コンサルティングサービスを提供するGartner社が、ビジネスリーダーたちに向けて発表している、「注目すべきIT業界のトレンド」ランキングです。
言い換えるならば、「ビジネスマンなら知っておくべき最新ITトレンド」でしょうか。
ランキングでは、具体的に以下のようなトレンドワードが挙げられています。
リストに目を向けてみると、耳慣れないカタカナ表現の多い昨今のビジネス業界でも聞いたことのない言葉ばかりが取り挙げられていますね。
ここでリストアップされているすべてを解説していくのは難しいため、今回はまず「ジェネレーティブAI」について掘り下げていきましょう。
ジェネレーティブAI 10秒まとめ
- ジェネレーティブAIとは、AIがもたらす新たな設計手法のことです。
- AIがデータを分析し、デザインすらもAIが行う。
- ジェネレーティブAIは、薬品開発や記事の執筆に応用可能。
- 犯罪に利用されるリスクも抱えている。
ジェネレーティブAIとは?
ジェネレーティブAIについて話すには、まずAI (Artificial Intelligence) について多少触れておく必要があります。
日本語で人工知能と表現されるAIは、文字通り知覚や思考といった人間のふるまい (知能) をコンピュータ上に再現する技術のことを指します。
AIはさらに、特定の分野のみに秀でた「特化型」と、より人間に近い形で様々な分野に適用できる「汎用型」に分類されます。
限定された役割の範囲内で分析や予測といった計算処理を行う特化型AIはすでに実用化が進んでいる反面、プログラムによって規定された役割を超えた判断を行うことは得意ではありません。
一方で汎用型AIは、特定の分野だけでなく世の中のあらゆる事象に対処することを目的として開発が進められています。
SFコンテンツに登場する人型アンドロイドや国民的アニメに登場するネコ型ロボットなどは、まさにこの汎用型AIが目標とするところでしょう。
実用化はなかなか進んでいないものの、人間のような自意識を持ち自己決定を行うというコンセプトから、 汎用型AIはしばしば「強いAI」とも表現されます。
では、Gartner社が提唱する「ジェネレーティブAI」とはどのようなものでしょうか。
Gartner社は、ジェネレーティブAIを「コンテンツやモノについてデータから学習し、それを使用して創造的かつ現実的な、まったく新しいアウトプットを生み出す機械学習手法」と定義しています。
また、ジェネレーティブAIによってまったく新しいデザインが生み出される過程を「ジェネレーティブデザイン」と呼ぶようです。
「ジェネレーティブAI」って何ができるの?
ジェネレーティブAIを活用したジェネレーティブデザインは、すでに複数の分野で実用化が進んでいるようです。
ここでは、AIベースのジェネレーティブデザインが用いられた事例をいくつか紹介します。
事例①ロケット部品の設計を自動化
国内某大学のものづくりサークルでは、先進的なロケットの筐体開発にジェネレーティブデザインが用いられているようです。
打ち上げ高度の記録に挑みつづける大学生エンジニアたちにとって一番の課題は、耐久性を損なわずに筐体を軽量化させること。
トライ&エラーの繰り返しが基本となるロケット部品の設計には、膨大な時間がかかります。
しかしジェネレーティブAIを応用することで、耐久性と素材 (軽量性) という条件を満たすプロトタイプを自動でアウトプットすることができるようになったそうです。
事例②集合住宅のレイアウトデザインを自動生成
ジェネレーティブAIは、住宅・建築業界でも活用され始めています。
特に、限られた空間を最大限に活用して収益化を目指す集合住宅の設計においては、オーナーの意向に沿って部屋や共用スペースの設計案を複数提示しながら、最終的なデザインが選ばれます。
営業担当のスキルや個性に依存しがちな設計案の提示をジェネレーティブAIによって自動化することで、 数百・数千のデザインパターンの中からオーナーにとって最適なものを提案することが可能になったといいます。
事例③Webデザインを自動化
ジェネレーティブAIは、有形物のデザインに留まらず、WebサイトのUIをはじめとする無形物の設計にも応用されています。
スクリーンの占有領域やフォント、取り入れたい色調などをユーザーが指定すると、ジェネレーティブAIが条件に合致するレイアウトパターンをいくつも提示してくれます。
これらの応用例を見てみると、ジェネレーティブAIの真価は単に新しいデザイン案を生み出してくれることではなく、人間が行うにはあまりにも非効率な「デザインのプランB」を自動生成してくれることにあるようです。
建築や製造業、Webデザインにおいて一定の条件を満たす選択肢は無数に存在しますが、それらの選択肢すべてを洗い出すことは人力では不可能なように思えます。
そのような点で、ジェネレーティブAIは、人間の限られた創造力と時間を補ってくれる究極のデザイン知能とも呼べるのではないでしょうか。
ジェネレーティブAIにも存在する「落とし穴」
設計・デザインに携わる人にとっては救世主のようにも見えるジェネレーティブAIですが、この技術が悪用される危険性も確かに存在します。
実際にGartner社も、冒頭に紹介した発表の中でジェネレーティブAIが「詐欺、不正、政治的な偽情報の発信、なりすまし」などに悪用されるリスクを指摘しています。
ロンドン大学ユニバーシティカレッジの研究者たちがまとめたAI犯罪のランキングによると、以下のような悪用ケースが懸念されているようです。
- ディープフェイク
- 武器としての無人自動運転車
- 高度なフィッシング詐欺
- AI制御の基幹システムの破壊
- 大規模恐喝
- AIが生み出すフェイクニュース
特にフェイクニュースの生成は、まさにジェネレーティブAIの得意とする分野。
悪意を持った人物がトピックや文字数、トーンなどを規定するだけで、いかにも事実らしいニュースストーリーを生成できてしまう未来すら想像に難くありません。
SNSの普及によって情報の拡散スピードが向上した現代社会では、 インターネット上で共有された情報は、その真偽に関わらずあっという間に広がっていきます。
ジェネレーティブAIによって生み出された虚偽の情報が、個人への嫌がらせに留まらずビジネスや国際政治にまで影響を及ぼす。
このような出来事が現実になるとすれば、企業や政府機関は「悪意のAI」に対する備えを求められるようになっていくかもしれませんね。
ヒトとジェネレーティブAIの未来
ジェネレーティブAIは人間の知覚能力を上回る画期的なデザイン技術ですが、なにを生み、それをどう使うかを根本的に定義づける権利は、人間にあります。
つまり、ジェネレーティブAIをビジネスや公共利益に活かすのも、悪意を持って嫌がらせ・犯罪に活かすのも、使い手である人間次第ということです。
今後数年のうちにビジネス業界においてジェネレーティブAIの活用が進むかもしれませんが、同時にジェネレーティブAIを悪用した犯罪が顕著になる可能性もあります。
ジェネレーティブAIを取り巻く倫理・法整備がスムーズになされ、この画期的な技術がビジネスや社会の発展に活かされることを願うばかりです。
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